コーヒーに含まれるポリフェノール「クロロゲン酸」とは?〜その健康効果を正しく理解する〜
今回はコーヒーの主要な成分、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸についてです。
「コーヒーは健康に良い」と言われるとき、主にその根拠として取り上げられるのは、カフェインよりもこのクロロゲン酸であることが多いです。
一方で、健康効果の話は期待が先行しがちな分野でもあります。
今回の記事では
- どこまでが研究で分かっていて、どこからがまだ分かっていないのか?
- コーヒーを飲むうえで知っておきたい注意点はあるか?
などについて、精密栄養学の視点からお伝えしていきます。
クロロゲン酸とは
コーヒーにもっとも多く含まれるポリフェノール
クロロゲン酸(Chlorogenic acid)とは、植物界に広く存在するポリフェノールの一種で、特にコーヒーの生豆に多く含まれる成分です。
広い意味では、キナ酸にカフェ酸やフェルラ酸などが結合した仲間をまとめてクロロゲン酸類と呼び、コーヒーからは 45 種類ほどが見つかっています。
その中で最も多いのが、キナ酸にカフェ酸が 1 つ結合した 5-カフェオイルキナ酸 で、これを「クロロゲン酸」と指すこともあります。
「コーヒーポリフェノール」という言葉も見かけますが、これはコーヒーに含まれるポリフェノール全体を指す呼び方で、その大部分をクロロゲン酸類が占めています。
(この記事では、「クロロゲン酸」をクロロゲン酸類の総称として扱います。研究で測られている量も、基本的にこのクロロゲン酸類の総量です。)
生豆の段階では、アラビカ種で乾燥重量の 4〜8%、ロブスタ種では 7〜14% をクロロゲン酸類が占めています。
苦味・渋み・酸味のもと
クロロゲン酸は、カフェインと並んでコーヒーの苦味や渋みのもとになる成分です。焙煎で分解されるとキナ酸などの酸が生じ、コーヒーの酸味に関わります。
以前書いたユーゲニオイデスの記事で、「カフェインやクロロゲン酸が少ないことが、苦味や渋みの少なさにつながっている」と触れました。
ユーゲニオイデスの強い甘さの背景には、実はこのクロロゲン酸の少なさも関連しているのです。

含有量は約 9 倍変動する
浅煎りは多く、深煎りは少ない
クロロゲン酸は熱に弱く、焙煎が進むほど分解されていきます。強い焙煎では、生豆に含まれていた量の最大 95% が失われることもあります。
ブラジルの食品技術研究所が、同じ豆を浅煎り・中煎り・深煎りに焙煎し、ペーパーフィルターで抽出、比較した研究では、アラビカ種の抽出液 100mL に含まれるクロロゲン酸は、浅煎りで約 219mg、中煎りで約 67mg、深煎りで約 24mg と、浅煎りと深煎りで約 9 倍の差がありました。
一方、カフェインは焙煎に対して安定的であり、浅煎りでも深煎りでもほとんど変わりません。
浅煎りコーヒーの多くに感じられる明るい酸味や渋みは、このクロロゲン酸が多く残っていることの表れでもあります。
1 杯に含まれる量は大きく変動する
スコットランド、イタリア、スペインのコーヒーショップ 104 店のエスプレッソを調べた研究では、1 杯あたりのクロロゲン酸は 6〜188mg、カフェインは 48〜317mg と、店によってかなり大きな開きがありました。
つまり「コーヒー 1 杯に含まれる量」は、豆の種類、焙煎度合い、淹れ方、そして量によって大きく変わるものだと考えておくのが良さそうです。
ただし、焙煎度合いについては明確に影響することがわかっているため、クロロゲン酸を意識的に摂取したいのであれば、浅煎りを選ぶとよいでしょう。
クロロゲン酸は体の中でどう働くのか?
とはいえ、どんな効果があるのかが分からないと「意識的に摂取したい」とはなりません。
では、ここからクロロゲン酸が我々の身体でどのように働くのか?を見ていきます。
ほとんどが大腸まで届けられる
クロロゲン酸がそのままの形で小腸から吸収されるのはごく一部です。
摂取したうちおよそ 3 割が、代謝物も含めて血液中に現れることが確認されていますが、残りの多くはそのまま大腸まで届きます。
大腸で腸内細菌が分解する
大腸に届いたクロロゲン酸は、腸内細菌の酵素によって分解され、そこで初めて効率的に吸収されるようになります。
その後、肝臓や腸内細菌によってさらに代謝され、さまざまな形で血液中を巡ります。
また、どの代謝物がどれだけできるかは人によって大きく異なることも分かっており、これにより「コーヒーの健康効果」が、人によって異なると感じる理由の一つともいえます。
クロロゲン酸は、私たちの体に吸収される成分であると同時に、腸内細菌の「エサ」にもなるのです。
腸内細菌叢との関わり
ビフィズス菌を増やす?ヒトの研究で分かっていること
実はヒトでの研究はまだそこまで多くありません。
健康な成人 16 人が 1 日 3 杯のコーヒーを 3 週間飲んだ試験では、腸内細菌全体の構成は大きく変わらない一方で、ビフィズス菌が増えていました。ヒトの便を使った試験管内の実験でも、クロロゲン酸の多いコーヒーほどビフィズス菌の増殖を促していました。
147 人を対象にした横断研究や、2024 年までの文献をまとめたレビューでも、適量のコーヒーはビフィズス菌の増加や腸内細菌の多様性と関連する、という方向で一致しています。
ただし、どれも小規模か短期間の研究であるため、「コーヒーを飲めば腸内環境がよくなる」とは明確に言い切れませんが、「ビフィズス菌を増やす」という良い方向への効果が見込める、程度には考えて良さそうです。
実際には、腸内環境は食事全体、睡眠、ストレスなどさまざまな要因で決まるため、コーヒーはその一要素と捉えておくのがよいと思います。
腸に不調がある方は
一方で、コーヒーは胃酸の分泌を促し、大腸の動きを活発にする作用があることも分かっています。
また、SIBO や過敏性腸症候群などの腸に不調を抱えている方については、コーヒーが合うかどうかも人によります。
気になる症状がある方、コーヒーを飲んで体調が優れない方は、まずは一定期間控えて自分の身体で確かめたり、専門家に相談することをおすすめします。
世間でいわれる「健康効果」はどこまで本当なのか?
クロロゲン酸は「血圧を下げる」「血糖値の上昇を抑える」「ダイエットによい」といった文脈で取り上げられることの多い成分です。
これらについて、研究で分かっていることを端的にまとめてみます。
血圧
5 本のランダム化比較試験(計 364 人)をまとめたメタ分析では、クロロゲン酸の摂取で収縮期血圧が平均 4.3mmHg、拡張期血圧が 3.7mmHg 下がっていました。
ただし、試験の多くがサプリメントとして高用量の摂取を行ったものであり、結果のばらつきも大きいため、質の高い試験の追加が必要だとしています。
血糖
デカフェのコーヒー由来のクロロゲン酸が血糖値に与える影響を調べたランダム化比較試験 6 本をまとめたレビューでは、健康な人では有意な効果は認められない、という結果でした。
動物実験では効果が報告されているものの、ヒトでは十分な証拠がないというのが現時点の結論です。
体重
グリーンコーヒー(生豆)エキスとしてクロロゲン酸を 1 日 500mg 以上摂った 3 本の試験(計 103 人)をまとめた解析では、体重が平均 1.3kg 減ったという結果が出ています。
ただし試験の数も人数も少なく、かつこれは生豆エキスの話であり、我々が普段飲んでいるコーヒーを飲んで同様の効果が得られる、とは結論付けられません。
認知機能
50 歳以上の 60 人を対象にした試験では、クロロゲン酸 540mg を単独で摂っても、認知機能や気分に有意な改善は見られませんでした。
まとめると...
クロロゲン酸の「健康効果」として語られるものの多くは、サプリメントや生豆エキスとしての高用量の研究に基づいていて、コーヒー 1 杯の摂取で確認できた研究はまだ少ない、というのが正直なところです。
これを踏まえると、コーヒーは味や時間を楽しむものとしつつ、副次的に健康に良い効果が見込める可能性がある、くらいの向き合い方がよいでしょう。
注意点:鉄の吸収を妨げる
クロロゲン酸をはじめとするポリフェノールには、はっきりと分かっている作用がもう一つあります。
それは、食事に含まれる鉄(非ヘム鉄)の吸収を妨げることです。
食事と一緒にコーヒーを 1 杯飲むと、食事からの鉄の吸収が 39% 減ったという報告があります。
ポイントはタイミングです。同じ研究で、コーヒーを食事の 1 時間前に飲んだ場合は吸収への影響がありませんでした。一方で、食後 1 時間以内に飲んだ場合、そして食事と同時に飲んだ場合は、同等の吸収阻害の作用が確認されています。
鉄は現代人、特に月経のある女性や、動物性食品を控えている方で不足しやすい栄養素です。
食後のコーヒーが習慣になっている方で、貧血気味・疲れやすいといった自覚がある方は、コーヒーを食前にずらす、または食後 1 時間以上あけるだけで、鉄の吸収への影響を抑えることができます。
クロロゲン酸を正しく理解してコーヒーを楽しむ
「コーヒーは健康によい」というとき、このクロロゲン酸のことを指すことが多いようですが、今回見てきたように、その正確性はまだ研究段階です。
ただその量については、浅煎りに多く含まれ、深煎りでは大きく減るということは確かに分かっています。
私なりにまとめます。
- 健康効果は明確ではない。ただ意識的に摂取したいなら浅煎りを選ぶこと。
- 鉄が気になる人は、コーヒーを食前にずらすか、食後 1 時間以上あける。
- コーヒー自体の腸への影響は人それぞれ。自分の身体で確かめることが大切。
以前に、コーヒーで注目されるもう一つの成分「カフェイン」についても記事をまとめています。

これらの記事を参考に、コーヒーの健康への影響を正しく知ることで、次の一杯がより充実したものになれば幸いです。
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主な参考文献
クロロゲン酸とは/焙煎と淹れ方
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